ブロックチェーン業界の概要や動向、今後の見通しなどについて解説しています。この記事で、ブロックチェーン業界で、今何が起きているかをざっくりと把握できるように書きました。ブロックチェーン業界の動向や現状に興味がある人、最新事例を見てみたい方などににおすすめです。
ブロックチェーン業界の動向をご紹介する前に、「そもそも、ブロックチェーンとは何か?」について解説していきます。また、ブロックチェーンを理解するうえで欠かせない「スマートコントラクト」という機能に関しても解説しています。内容をすでに理解されている方は読み飛ばして下さい。
ブロックチェーンとは簡単に言うと、発生した取引履歴をブロックに詰めて、ブロック同士をつなぎ合わせたものです。
データをみんなで分散して持ち、すべての取引の整合性を承認して、ブロック状につなぎ合わせていきます。過去の1つのブロックを書き換えようとしても、後のブロックの中身を全部書き換える必要があるため、改ざんができない仕組みになっています。
従来のデータベースというのは、中央に管理者がいてその管理者の信頼の元、取引が行われていました。銀行をイメージすると分かりやすいのですが、私たちは銀行にお金を預けるのは、管理者としての銀行を「信頼」しているからです。ブロックチェーンの革新的なところは、その「信頼」を「技術」により構築したという点です。
ブロックチェーンには、あらかじめ指定した取引を自動化できる「スマートコントラクト」という仕組みがあります。イーサリアムのブロックチェーンにはこの「スマートコントラクト」が実装されています。
例えばAさんとBさんがサッカーの試合で賭けをして、勝ったほうに1万円支払うというルールを決めたとします。試合結果はCサイトのスポーツ欄と定義して、この仕組みをスマートコントラクト上で実装します。試合の結果、Aさんが賭けに勝った場合には、Cサイトのスポーツ欄の結果をトリガーとして、BさんからAさんに自動的に1万円が支払われます。
スマートコントラクトはこのように、自分たちでルールを定義し、実装することで取引の処理を自動化できる仕組みです。ルールは自分たちで自由に作れますので、いろいろなものに応用できます。こうした処理は業務の効率化につながるため、企業での活用も模索されています。
続いて、ブロックチェーン業界の現状や動向について解説します。ブロックチェーンはあくまで基盤となる技術ですので、ここではブロックチェーンがどのようなものに応用されているかを実例を挙げてご紹介していきます。
ブロックチェーンを利用したサービスで最も知られているのが暗号資産です。暗号資産は2018年のコインチェックの流出事件を機に、信頼が大きく損なわれましたが、2020年ごろから再び脚光を浴びています。2021年にはテスラやペイパルなど大手企業が参入しており、その動向が注目されています。
近年では、ブロックチェーンを用いたプラットフォームの構築も進んでいます。2018年10月に開始した「IBM Food Trust」は、生産から小売までの食のトレーサビリティを実現するプラットフォームです。ブロックチェーンの持つ非改ざん性が活用されています。現在ではウォルマートをはじめ、カルフール、ネスレといった大手食品企業が参画しており、サプライチェーンの可視化や信頼性の担保、ブランド力の向上などに貢献しています。
DeFi(分散型金融)とは、銀行や証券会社などの仲介者や管理者を擁せずに金融サービスを提供するものです。DeFiの代表的なサービスとして、DEX(分散型交換所)が挙げれれます。DEXは、暗号資産を持っている人と暗号資産を交換したい人とをつなげる仕組みで、イーサリアムの「スマートコントラクト」をベースに作られています。暗号資産の供給サイドでは年10~15%ほどの高い利回りが得られるとのことから、一部の個人投資家などが参入しています。
NFTとは、ノン・ファンジブル・トークンの略で、デジタルデータの唯一性を証明するものです。NFTにはブロックチェーン技術が用いられ、アートやゲームのアイテム、トレーディングカードなどのデジタルデータを唯一無二である(本物である)と証明することができます。米国ではすでにNFT人気が高まっており、数億~数十億円もの値段がつくアート作品も落札されています。
IEOとは、イニシャル・オフィス・エクスチェンジの略で、ブロックチェーンを利用した新しい資金調達の仕組みです。資金調達を行いたい企業がトークンを発行し、暗号資産交換所を介して投資家に販売することで、資金調達ができる仕組みです。2021年7月にコインチェックは日本初となるIEOを実施しました。ハッシュパレットの「PLT(パレットトークン)」を売り出し、9億3,150万円をわずか6分で調達しました。
STOとは、セキュリティ・トークン・オファリングの略で、IEOと同様にトークンを発行して資金調達を行う仕組みです。STOの最大の特徴は、STOで発行されるセキュリティトークン(ST)が法律上、株や債券のような有価証券として扱われる点です。有価証券扱いになることで、既存の証券と同様に投資家保護の規定が適用されるため、より安全な投資先となります。
STは不動産や航空機、船舶、ワイン、スニーカーなど実物の資産が証券化できることから、今まで投資できなかった資産への投資が可能となります。さらに、従来の証券よりも発行や管理のコストが抑えられるのが特長です。
2021年3月には三菱UFJ信託銀行がセキュリティ・トークンを発行・管理するプラットフォーム「プログマ」を立ち上げました。さらに、2022年春にはSBIが設立した「大阪デジタルエクスチェンジ」が開業、2022年3月には岡三証券が参入するなど、STOへの新規参入企業が相次いでいます。
多くの魅力と革新性を持つブロックチェーンですが、当然、課題や問題点もあります。ここでは、ブロックチェーン業界が抱える課題の中から、特に重要なポイントを抽出しました。
ブロックチェーンが抱える最大の課題は消費電力です。ブロックチェーンは採掘(マイニング)に大量のコンピュータが必要とされ、その消費電力は膨大なものになります。データサイエンティストAlex de Vries氏の試算によると、ビットコインの流通に伴う年間の電力消費量は204.50TWhで、これはタイの年間電力消費量に相当するとされています。
ブロックチェーンの利用は今後、爆発的に増える可能性があります。現在でもこれだけの電力を消費するので、本格的に普及した際の電力ははかり知れません。日々増加する電力をいかに補うかは、ブロックチェーン業界が抱える最大の課題と言えます。
現在、イーサリアムの「ガス代」が高騰しています。ガス代はイーサリアムのスマートコントラクトを使用する際の手数料です。イーサリアムが以前よりも多く使われるようになり、手数料が高くなってしまったのです。
スマートコントラクトは非常に優れたシステムですが、料金が高くなってしまっては元も子もありません。最近ではこうしたガス代の高騰を受け、「ソラナ」などの新しいブロックチェーンの台頭が見られ始めています。
ブロックチェーン業界は、今後も拡大を続けることが予想されます。CB Insightsの調査によると、2021年のブロックチェーン関連の資金調達額は、前年比で約8倍の252億ドルになりました。ここ1年でスタートアップの資金調達額が急拡大していることが分かります。
ブロックチェーンはあくまで、暗号資産やNFT、DeFiなどを支える基幹技術です。どの分野が伸びるかは不明ですが、ブロックチェーン技術そのものは、今後多くの分野で応用されることでしょう。
消費電力の増加など問題も多くありますが、イーサリアムのPoSなど電力を抑える仕組みも開発されています。いずれこうした課題は解決されると思われます。
暗号資産をはじめ、NFTやDeFi、IEO、STOなど従来の技術では不可能だったサービスがブロックチェーンでは続々と誕生しています。ブロックチェーンの本質は、信頼性の必要な取引を低コストで行える点です。いまだ黎明期であるブロックチェーンですが、そのスピードは速く、実用化の波が徐々に押し寄せています。