エレベーター業界の業界地図や現状と動向、課題や今後の見通しなどをご紹介します。エレベーター業界の構造から現状や課題、将来の見通しなど全体を一通り学べるように解説しています。
エレベーター業界の現状や動向について解説していきます。
エレベーター業界は、エレベーターは、モーターやワイヤーロープなどを使用して稼働させるため、製造メーカーには大手電機メーカーが参入しています。
上の図はエレベーター業界の業界地図です。エレベーター業界は主に、「製造」と「保守」の市場に分けられます。なかでも、「製造」は大手電気3社と専業のフジテックの4社による寡占状態となっており、国内シェアの大半を占めます。一方、「保守」市場においては、独立系企業が勢いを見せています。
エレベーター業界の動向を分析します。下のグラフは、エレベーターの生産数量と生産金額の推移を示したものです。経済産業省の機械統計編(2022年6月24日公表)によると、2021年のエレベーターの生産数量は前年比5.5%減の27,455式、生産金額は同9.3%減の1,817億円でした。
エレベーターの生産数量と生産金額の推移(出所:経済産業省、グラフは業界動向サーチが作成)
グラフを見ますと、生産数量は2014年まで増加し2019年までは横ばい、2020年から2021年の2年間は減少傾向にあります。生産金額は2012年に上昇して以降18年まで横ばい、19年に増加に転じたものの2020年以降は減少しています。2021年はついに2千億円台を割り込みました。
とくに2020年は生産数量、金額ともに、10年間で最も大きい減少幅を記録し、2021年はさらに落込ちこみました。こうした状況から、2020年から2021年のエレベーター業界は厳しい状況であったことが分かります。
2020年は新型コロナの感染拡大の影響を受け、マンションやホテル、ビルなどを中心に新設工事の受注が減少しました。一方、エレベーターの保守・点検や設備更新などの業務においては、契約台数が堅調に推移しました。
新型コロナの感染拡大をきっかけに、利用者の衛生意識が高まっています。エレベーターは密になりやすく、さらにパネルのボタンは多くの人が触れるため、業界ではボタンに触れずに目的階へ行けるエレベーターの開発が進んでいます。
大手エレベーターでは、直接ボタンを押さずに呼び出しや目的階の指定が可能なエレベーターの導入を始めています。ボタンに手をかざすだけでセンサーが反応するため、タッチレスでの操作が可能です。その他、呼び出しから目的階を指定できる専用アプリも開発されました。
タッチレス操作ボタンは、オフィスやマンション、商業施設のみならず、病院や福祉施設など適用範囲を拡大しています。新設エレベーターへの導入を拡大しているほか、今後は既設のエレベーターへの導入も目指しており、需要の拡大を見込んでいます。
エレベーター業界にも、当然、課題や問題点があります。ここでは近年、エレベーター業界が抱える課題や問題点の中から特に重要なポイントをピックアップします。
国内ではコストの削減によって、エレベーターの保守・点検の費用を抑える傾向が強まりつつあります。エレベーター事業は製造や新設のみならず、保守・点検、部分的なリニューアルなども担うストックビジネスでもあります。一方、近年は保守・点検などのサービス価格が熾烈化しており、大手メーカー系と独立系での間では、保守事業の受注獲得の競争が激しくなっています。
エレベーター業界では、人材の確保と育成も課題の一つです。エレベーターの設置や保守・点検作業には技術が必要ですが、技術力を身に着けるには時間がかかります。また、業界ではエレベーターの設備更新が急増する『2020年問題』の時期も迎えています。急増するニーズに対応するため、人材の育成を急いでいます。
2020年のエレベーター業界の市場規模は縮小しましたが、今後しばらくは堅調に推移する可能が高いと言えます。
国内では、1990年代に設置したエレベーターの更新時期を一斉に迎える『2020年問題』をはじめ、メーカー各社が相次いで旧部品の供給終了を発表しています。こうした状況からエレベーターの新設や一部リニューアルの需要が高まるでしょう。
特にエレベーターの保守事業は、今後もニーズが増えると予想されます。実際、三菱電機ではエレベータ事業を子会社に集約し保守メニューの拡充を図っています。さらに、保守事業が主力のジャパンエレベーターはこの2年間で10数社を買収するなど、市場拡大を見越した動きが見られています。
また、エレベーターのIT化も進むとみられます。Report Oceanによると、スマートエレベーター市場の世界規模は2021年に96億米ドルとなり、2028年には138.6億米ドルに達すると予想しています。2022年から2028年の予測機関にわたって、5.3%を超える健全な成長率で成長するとの予測です。『スマートエレベーター』とは、セキュリティーの強化や待機時間の短縮などをIoT技術の活用で自動化したエレベーターです。
各社は独自開発のIoTプラットフォームの活用で、持ち時間の短縮や混雑を緩和し、セキュリティ面ではエレベーターとビル内設備を連携させるなどIT化を進めています。こうした技術は文化が異なる海外市場でも進めていることから、今後、より新たな製品やサービスが登場することが予想されます。