タクシー業界の業界地図や現状と動向、課題や今後の見通しなどをご紹介します。タクシー業界の構造から現状や課題、将来の見通しなど全体を一通り学べるように解説しています。
タクシー業界の最近の現状や動向について解説していきます。
タクシー業界は、「法人」と「個人」の2つの事業者に大別されており、2019年度には総事業者数が47,904社となりました。また、車両数は法人が192,497両となり、個人宅タクシーのおよそ3倍の車両数を保有しています(参考:国土交通省)
上の図はタクシー業界の業界地図です。タクシー業界は主に、「大手タクシー」、「準大手タクシー」、「協同組合」の市場に分けられます。なかでも、「大手タクシー」4社の台数シェアは都内で大半を占めます。また、子会社化や業務提携など再編の動きが激しい業界でもあります。
2020-2021年のタクシー業界の動向を分析しますと、大幅な減収減益を記録する企業が多く見られました。各社の業績から2020年のタクシー業界は、厳しい事業環境であったことが分かります。
2020-2021年は、新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛の影響を大きく受けており、人の移動が制限されたことで、タクシーの利用客が激減しました。国内観光客の減少や訪日外国人需要の消滅、テレワークの普及や出張の減少、イベントの中止や飲食店での酒類提供の停止などが主な要因です。
一方、2020年の「GOTOキャンペーン」期間中は、持ち直しの動きが見られましたが、再度の感染拡大により同キャンペーンは中止となり、需要増は一時的なものとなりました。2021年以降も度重なる緊急事態宣言やまん延防止の適用によって利用者は少なく、厳しい環境が続いています。
最近では、利用者の拡大を図かるため高齢者や福祉、妊婦さん向けに特化したサービスを展開しています。さらに、コロナ禍ならではの新たなサービスも誕生しています。
新型コロナの感染拡大によって、密を避けたり外出を自粛する人が増えたことをきっかけに、「お墓参り」や「買物」の代行、さらに「フードデリバリー」などのサービスを展開しています。
また、コロナ禍では遠出を控える人も多いことから、コロナ禍ならではの旅行需要も積極的に取り込んでいます。近場の旅行を楽しむマイクロツーリズムや、自宅から宿泊施設までの送迎つき貸し切りプランなど、他者との接触を避ける旅行にとタクシーの活用を充実させています。
実際、大和自動車交通は異業種の共立メンテナンスと提携し、自宅からリゾート施設まで送迎をする「ドアtoドア旅行」を展開しています。苦戦を強いられている状況の中でも利用者の拡大を図る動きが見られています。
ここでは近年、タクシー業界が抱える課題や問題点の中から特に重要なポイントをピックアップします。
国内のタクシー業界の課題の一つに、乗務員不足が挙げられます。最近では、女性ドライバーが増加傾向にありますが、業界全体で見ると乗務員は不足しており、2006年をピークに減少傾向です。タクシーの乗務員が減少している背景としては、高齢化や勤務年数が短く離職率が高いこと、二種免許の取得が必要なことなどが挙げられます。乗務員の不足は稼働率の低下につながるため、業績にも影響を与えてしまいます。
多くのタクシーが燃料として使用するLPガス(液化石油ガス)の価格は、ガソリンや軽油よりも安価です。しかしながら、最近では物価高とウクライナ危機を背景に燃料費であるLPガスの価格が高騰しています。また、電子マネーやQRコード決済などのキャッシュレス決済の手数料や、新型コロナの感染対策費用なども負担となっており、高騰するコストの増加が利益を圧迫しています。
今後タクシー業界は、しばらくは新型コロナの影響に左右される可能性が高いと言えます。
新型コロナウイルスの感染拡大では、旅行やイベント、ビジネス需要の減少で、タクシーの利用が大幅に減少しています。ふたたび感染が拡大すれば、飲食や外出を控える人々が増える確率は高いでしょう。
一方、感染状況が落ち付けば、観光や旅行、イベント市場などの回復は早いことが予想されており、大勢の人が集まる市場の回復に伴ってタクシーの利用増加が見込めるでしょう。
現在、タクシー業界では配車アプリを利用した「変動運賃制」の実証実験を行っているほか、2021年11月には、同じく配車アプリを通した「相乗り」が解禁されました。乗客側は運賃を安価に抑えられることから、今後新たなタクシー需要が期待されています。
また、タクシー業界のデジタル化も進むと見られています。最近では、アプリを通したサービスの増加や、需要予測や効率配車、人手不足解消などを目的した車載タブレットの活用も進んでいます。
タクシー大手の第一交通ではAIと連動可能なGPSを使って運賃を計測する「ソフトメーター」を開発しています。また、2020年には日本交通HDとDeNAの配車アプリ事業が統合しました。新たなタクシーアプリ「GO(ゴー)」では、乗車中に事前決済ができるなど乗客の利便性を高めています。今後、このようなデジタルを活用した新サービスが続々と登場してくることが予想されます。