世界と日本の物価とインフレについて【2023年版】

お金と上昇しているグラフ

今回のテーマは「物価」です。近ごろ「値上げ」などのニュースを耳にしますが、「なぜ物価が上がっているのか」その理由があいまいな方も多いのではないでしょうか。また、「日本は現在インフレなのか」、「なぜ円安が進んでいるのか」、「今後どうなるのか」など関心の高い内容を集約しました。少々長い内容ですが、この記事を読めば、今起きている物価の動きの理由や背景などが理解できるようになります。

世界と日本の物価の現状【2022年】

世界中でモノのやりとりがされている画像

ますは、物価の現状把握です。「世界と日本の物価が今どうなっているのか?」を見ていきましょう。

世界と日本の物価はどうなっているのか?

下のグラフは世界の主要国と日本の消費者物価指数(CPI、前年同月比)の推移です。消費者物価指数(CPI)は消費者が購入する様々な商品価格の変動を調査した指数で、物価動向を把握する重要な指標です。前年同月比が一般的に用いられます。

主要国の消費者物価指数(CPI、前年同月比)の推移

上のグラフは米国、ユーロ、日本、中国の消費者物価指数の比較と推移をあらわしたものです。各国の消費者物価指数(CPI)の推移を見ますと、米国とユーロの物価指数が非常に高い水準にあるのが分かります。2022年12月の米国のCPIは+6.5%で、ピークをつけた6月からは減少傾向にあります。

一方、2022年12月のユーロ圏のCPIは+9.2%で、こちらもピークをつけた10月からは減少傾向にあります。

欧米ではピークを迎えつつあるCPIですが、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「インフレ期待の支配を打ち破らなければならない」としており、FOMCも「インフレを2%目標に戻すことに注視している」と指摘しています。

日本の消費者物価指数は+4.0%(2022年12月)

グラフが表示されているパソコン

続いては日本の物価の現状です。2022年12月現在の日本の消費者物価指数(CPI)は+4.0%です。欧米のCPIはピークから減少傾向にありますが、日本のCPIは増加傾向にあります。

日本の物価の内訳を分析

続いて、日本の物価の内訳を分析していきましょう。以下のリストは2022年12月の品目別の物価上昇率です

2022年12月の品目別の消費者物価指数を見ますと、驚くべきことに「光熱・水道」が+15.2%、そのうち電気代が+21.3%、食料が+7.4%と高い物価上昇が見られます。22年9月まで減少していた「交通・通信」も10月以降、増加に転じました。

欧米に比べて物価上昇が遅れていた日本ですが、22年12月のCPIが前年比4.0%、生鮮食料品を除くコアCPIでも4.0%と、日銀が目標とする2%の物価安定目標を大きく上回る水準にまできています。警戒すべき状況となってきました。

企業間物価は高騰 CPIと大きな開きが

以下のグラフは日本の企業物価指数の推移を示したものです。

企業物価指数(CGPI、前年同月比)の推移

2022年12月の国内企業物価指数は+10.2%(前年同月比)となっています。直近では最高値圏で推移しています。近ごろ消費者物価指数は増加傾向にありますが、企業物価指数と消費者物価指数の間に大きな開きがあることが分かります。

実は、2017年にも今回と同じような状況がありました。2017年は世界的な原油高を契機に企業間物価指数が高騰しました。企業は高騰した原料費を商品価格に反映させましたが、デフレマインドが浸透している日本人には「値上げ」は受け入れられませんでした。結果として、値上げによる「収入増」よりも「数量減」の影響が上回り、業績が低迷したという苦い経験があるのです

こうした経験から、企業は上昇した原料費分を自社で消化することで、商品価格の値上げを先延ばしにしてきました。企業のコスト高の消化は利益率の低下につながります。以下のグラフは日本の食品メーカーの利益率と成長率を比較したものですが、食品業界の利益率が全産業と比較しても低い水準にあることがわかります。

スーパーなどで買い物をする人なら分かりますが、最近では商品の容量やパッケージなど少しづつ小さくなっています。「ステルス値上げ」とも言われていますが、これは、値上げをしたくてもできないメーカーの苦肉の策と言えるでしょう。

しかしながら、今後、原料費の上昇が長期化すれば企業が耐えられなくなるのは明らかです。実際に2022年に入ってから、各社は堰を切ったように値上げをしており、2023年も値上げを継続しています。企業物価指数と消費者物価指数との差にはいまだ開きがあり、今後も物価が上昇するリスクがあります。

なぜ物価が上昇しているのか?

複数のグラフと虫眼鏡

世界的にインフレ傾向にあり、日本でもそのリスクが高まっていることが分かりました。それではなぜ物価が上昇しているのでしょうか? 物価上昇の原因とその背景について解説していきます。

原因1. 金融緩和(世界的なカネ余り)

現在の物価高を引き起こした主な原因は「金融緩和」です。簡単に言えば、「世界中にお金がじゃぶじゃぶにある」からです。世界中にお金があふれかえっていることで、お金の価値は下がり、モノの価値は高まります。これが物価上昇を引き起こしている本質的かつ、構造的な原因です。世界の中央銀行の資産高とCPIの推移はほぼ連動しており、昨今起きている世界的なインフレをもたらした本質は中央銀行の資産の膨張、つまり世界的なカネ余りが原因となります。

新型コロナ感染症の拡大により世界経済は大きなダメージを受けました。その影響は甚大で、これを危惧した各国の中央銀行は「金融緩和」という形で市場にお金を大量に流し込みました。この動きそのものは問題なかったのですが、あまりに大量のお金が市場に供給されたため、世界的に「カネ余り」の状態になってしまったのです。その結果、「もの」の値段が相対的に上がり、物価上昇、しいてはインフレを招いてしまったのです。現在のインフレは一時的な物価の上昇というよりも、構造的なインフレの可能性が高いのです。

原因2. 渡航制限等による物流の停滞、人手不足

新型コロナの流行に伴う渡航制限やロックダウンの影響により、世界中の物流の停滞や鉱山操業の停止などが相次ぎました。いわゆる、サプライチェーンの停滞です。その結果、原油やLNG、銅、木材、とうもろこしや小麦といったエネルギーや原材料の供給が滞り、価格が高騰しました。川上である原材料の価格高騰、物流費の増加により、川下である商品や製品、食品価格も上昇しました。

原因3.原油価格の上昇

コロナ明けの経済活動が活発化したこと、産油諸国が生産調整を行っていることなどを背景に原油価格が上昇しました。さらに、脱炭素の動きにより、世界最大の産油国である米国のシェールオイルのリグ(採掘装置)が2018年のピークの半分ほどしか稼働していないことなども原油価格上昇の要因の一つとなっています。

原油高は物価上昇を招きます。原油は化学や衣服、プラスチックの原料となる一方、重油やガソリンなどエネルギー源にもなります。重油やガソリン価格の上昇は輸送コストの増加となり、あらゆる輸入品の価格が上昇します。

現在、世界は脱炭素や地球温暖化を防止する潮流にあり、原油や石炭などの化石燃料への投資が難しくなっています。こうした点から、安易な原油の増産もしにくく、供給不足から原油や石炭などの価格が高止まりしやすい環境にあります。

原因4.ロシアのウクライナ侵攻

ロシアのウクライナ侵攻により、各国はロシアに対して厳しい経済制裁を行っています。ロシアとの貿易の停止も制裁の一つですが、これにより物価が上昇する恐れがあります。

ロシアは原油生産量が世界3位、LNGが世界2位です。アルミニウム、ニッケルに至っては世界で10%ほどのシェアを占めます。こうしたエネルギーや資源の供給をロシアから停止することで、需給バランスが崩れ、物価が著しく上昇する可能性があります。

物価上昇と円安の関係

円のチケット

2022年は物価上昇とともに「円安」が進行しました。実はこの円安も今回の物価上昇に関係があります。

なぜ円安が進んでいたのか?

結論から言いますと、昨年、円安をもたらした主な要因は「長期国債の金利差」です。正確には日米のマネタリーベースの差で生じるのですが、ここでは説明が長くなるので割愛します。

米国は物価の上昇が高いため、今後、米連邦準備理事会(FRB)は米国の長期国債の金利を引き上げていきます。金利を引き上げることで通貨の価値が高まり、物価の上昇に歯止めがかかるからです。

一方で、日本は直近では物価が上昇してきましたが、米国ほどの水準ではありません。当面利上げを予定しておらず、金利は依然として低水準のままです。その結果、米国と日本の長期国債に金利差が生じるため、金利の高いドルに人気が集まり、ドル高、つまり円安になったのです。

今後どうなるのか? インフレ時のシナリオとは?

データを分析している人たち

さて、今後の物価の行方はどうなるのでしょうか。このまま世界や日本で物価上昇(インフレ)が進むのか、一時的な上昇で終わるのか、未来は誰にも分りません。しかし、今後起こりえる事態を想定して準備をしておくことはできます。ここでは、もしこのままインフレが進んだらどういうことになるのか、いくつかのシナリオを用意しました。

新興国の経済不安と通貨安

金融緩和により米国は歴史的な低金利となっていましたが、物価上昇を抑えるため、米国の金利は今後、上昇に転じます。その結果、低金利下で新興国に流入していたマネーは引き上げられ、米国に向けて多額の資金が流れ込みます。米国の長期金利が1%上昇すると新興国のGDPは0.6%低下するとの試算もあります。経済的に不安定な新興国よりも安定した米国が高い金利であれば、米国にお金が流れるのは当然のことです。その結果、米ドルに対して弱い通貨である新興国の通貨はさらに弱くなります。

株式市場の下落

物価の上昇に伴い、先進国の株式市場の下落も起こりえます。新型コロナ以降、世界的な金融緩和により市場に供給された大量のマネーが、株式や不動産、商品市場に流れ込みました。物価上昇による利上げはこうしたマネーが逆流する可能性があります。

1970年代のオイルショック時にあった2度のインフレは、今回と同じ「コストプッシュ・インフレ(供給不足によって生じるインフレ。悪いインフレとも言われる)」でした。当時の米国はインフレを退治するまで金利を上げ続けましたが、米国株は上がらず、金融市場は混乱をきたしました。

今回も同じようなことが起きる可能性があります。1970年のオイルショック時は実質金利(長期金利-インフレ率)がマイナスでしたが、現在の米国も同じように実質金利がマイナスになっています。適正な利上げでインフレが収まれば市場に大きな混乱は考えられませんが、オイルショック時のような物価上昇が止まらず、金利を上げ続けなければならない局面では、株式市場は下落する恐れがあります。

過剰債務リスク 欧州不動産にも注意

インフレによる金利上昇局面で命とりなのは過剰債務です。金利が上昇する局面での借金は逆風でしかありません。当然ながら、多くの債務を抱える国や企業、個人のリスクは高まります。IMFによると、2021年の世界の債務残高は303兆ドルと過去最高になりました。21年は20年に比べて10兆ドル増加しています。

現在、債務の急拡大が見られる国はスウェーデンやフランス、中国、オランダなどです。また、家計債務が大きい国としては、豪州、カナダ、韓国、ノルウェーなどが挙げられます。

不動産市場にも注意が必要です。今までの不動産価格は、物価上昇と低金利という2つの追い風を受けて上昇を続けてきました。これが、金利の上昇によって巻き戻しが起きる可能性があるからです。

UBSグローバル不動産バブル指数によると、フランクフルト、トロント、ミュンヘン、チューリッヒ、バンクーバー、ストックホルムなど欧州やカナダで不動産価格の高騰が目立ちます。東京も「バブルリスクの一歩手前」の水準にあり、一部エリアでは億を超えるマンションの売買が活発化していました。ものの値段はいずれ適正値に戻ります。行き過ぎた価格はやがて本来価値に収束していくでしょう。

最悪の場合、スタグフレーションも

現在起きているインフレは「コストプッシュ・インフレ」です。インフレには2種類あり、需要が高まることで発生する「デマンドプル・インフレ」と、供給が追いつかないことによって発生する「コストプッシュ・インフレ」があります。

米国の消費マインドと物価の推移

上のグラフは米国のミシガン大学消費者態度指数と消費者物価指数の推移を比較したものです。いわゆる、米国の「消費マインド」と「物価」の関係を示しています。

物価上昇と消費マインドの差が開くと、「スタグフレーション」を招く恐れがあります。いわゆる、景気後退時の物価上昇です。直近では物価が減少してきたため、その恐れはかなり減りましたが、今後も注視していく必要があります。

まとめ

いかがだったでしょうか? 少々、長かったですが、世界と日本の物価の現状とその原因、日本の潜在的なインフレリスク、インフレ時のリスクシナリオなどを解説していきました。

今後、どうなるかは分かりませんが、今世界で起きていることの意味を理解し、どうなるかを想定しておくことは意義のあることだと思います。この記事では、今後も物価の最新動向を更新していきます。気になる方は、定期的にチェックしてみて下さい。