製紙業界の今後と将来の展望は?

用紙や包装紙、トイレットペーパー

製紙業界の今後と将来の展望について解説しています。「製紙業界がこれからどうなるのか?」、「製紙業界の中で今後伸びる分野は?」、「製紙業界は将来、どのようなシナリオを描くのか」などを具体例を交えてご紹介していきます。

製紙業界の今後や展望、将来の見通しを把握しておくことは、業界に身を置く方はもちろん、これから就職や転職を考えている方にとっても非常に重要なことです。将来への備えや心構えの準備として、この記事を参考にしてみて下さい。

製紙業界の今後と将来の展望について

これからの製紙業界はどうなる?

矢印で将来に向かっている人たち

経済産業省の「生産動態統計」によると、2020年の紙・板紙の国内生産量は前年比10.0%減の2,287万トンでした。2018年以来、3年連続の減少となります。

国内の「紙」の生産量は減少傾向にあり、こうした傾向は今後も続くと見られます。インターネットの普及を背景とした書籍や雑誌、新聞の販売不調に伴い、印刷、新聞、情報紙向けの「紙」の落ち込みが目立ちます。今後、このような「紙」から「デジタル」への動きは加速すると見られ、「紙」の需要はさらに減少することが予想されます。

一方で、家庭向けの「衛生紙」や「段ボール」などの「板紙」需要は好調で、2020年には初めて「板紙」が「紙」を上回りました。

今後の製紙業界ですが、減少する「紙」をいかに「板紙」が下支えできるかがポイントになります。現在、紙製品全体に占める割合は「紙」、「板紙」が均衡しており、今後、「紙」から「板紙」へのスムーズなシフトが課題となります。製紙メーカー各社もこうした点を考慮しており、既存の新聞紙工場などを段ボール工場へと変える動きが見られます。

こうした移行がうまくいって、ようやく横ばいまたは微増の業績を維持することができます。状況としてはかなり厳しいと言えるでしょう。今後、製紙業界が成長するには、新たな成長領域の育成が必要になります。

今後、製紙業界で伸びそうな分野は?

望遠鏡で将来を見ている男性

今後の製紙業界を見通すうえで重要なポイントは、今後減少が進むであろう「印刷、情報、新聞などの紙」をいかに他の領域でカバーするかです。「印刷、情報、新聞用紙」とはいわゆる従来の印刷業であり、これはいわば業界の変革です。

業界を変革するには、今後伸びるであろう分野を分析、研究することは欠かせません。ここでは、今後、製紙業界の中で伸びる可能性が高い分野や領域を詳しくご紹介していきます。

「セルロースナノファイバー(CNF)」とは、植物の細胞壁に由来するセルロースからなる素材で、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を有するとされています。熱による変形も少なく、比表面積が大きいのが特性です。自動車部品や建材、半導体封止版、フィルターや食品包装材など幅広い用途が考えられます。

CNFは価格が高いのが課題ですが、CNFの製造には従来の製紙製造設備が活用できることから、製紙業界内では新たな成長領域として注目が集まっています。CNFの開発は10年ほどが経過し、素材開発は完成に近づいています。多くの産業で様々な使い道が想定できますので、本格的な普及が開始すれば、製紙業界にとって大きな追い風となります。ちなみに、日本製紙ではCNFの量産化と事業化を2023年ごろとしています。

段ボールは現在の成長領域ですが、今後も堅調に伸びる可能性が高い分野です。ネット通販の需要は今後も底堅く、また、段ボール用途の約半数は食料品であることから、底堅い推移がうかがえます。新型コロナによる外出自粛の影響もネット通販には追い風となっています。さらに、新型コロナ禍による在宅時間の増加や公衆衛生意識の高まりから、トイレットペーパーやペーパータオルなど衛生用紙の需要も増えています。

国内市場が減少傾向にあるなか、海外への輸出を増やすことで成長を促すこともできます。現在の印刷業界の海外への輸出割合は6%前後と非常に低い水準にあり、成長著しいアジアや豪州、中国、インドなどへの輸出を増やすことで、国内の落ち込みを賄うことができます。海外ではとくに「段ボール」や「紙おむつ」需要が強く、販売拡大の余地が残されています。

今後の展望:製紙業界に起こりうる3つのシナリオ

3本の矢が的に当たっている画像

ここでは、製紙業界が今後どのような推移をたどるのか、3つのシナリオをもとに分析していみたいと思います。未来は誰にも予測できませんが、今後起こりうるシナリオを想定しておくことで、将来への備えをすることができます。

印刷・情報用紙は2000年に、新聞用紙は2006年ピークを迎えており、これらの「紙」は今後、減少するシナリオを想定しています。したがって、今後を見据えるうえで、堅調な「板紙」や「海外事業」がいかに「紙」の落ち込みをカバーするかが焦点となります。

今後、起こりうる可能性が最も高いのはシナリオ②で、既存の「紙」が減少する中、段ボールや衛生用紙などの「板紙」、「海外事業」が牽引するパターンです。段ボールや海外事業は今後も底堅く推移する可能性が高く、確度の高いシナリオとなります。全体としては微減から横ばい付近で推移することが想定されます。

シナリオ①は既存の「紙」事業が減少し、期待していた「板紙」も伸び悩むパターンです。業界としては最も厳しいシナリオで、業績も大きく落ち込みます。シナリオ③は「板紙」や「海外事業」が想定以上の伸びを見せ、業界全体としてもプラスの成長が期待できます。

今後数年間の製紙業界は、シナリオ②を中心に展開することが予想されます。段ボールや海外などの成長領域で「紙」の減少分を吸収し、CNFなどの「新事業」を育ててゆくのが基本となるでしょう。当面は厳しい状況が続きますが、新事業の成長は新たな可能性を秘めています。既存の発想にとどまらない、柔軟かつスピーディーな経営判断が求められています。

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