出版業界の今後と将来の展望について

複数の積み重なった本

出版業界の今後と将来の展望について解説します。出版不況と言われて久しい出版業界ですが、今後どのような動きを見せるのか興味をお持ちの方も多いと思います。あくまで現状からの推論となりますが、これから起こりえるシナリオを複数用意しました。

出版業界の今後の見通しや将来の展望を把握しておくことは、業界に身を置く方はもちろん、周辺の関係者の方にとっても重要なことです。この記事を参考に、業界の実情を分析してみて下さい。

出版業界の今後と将来の展望について

これからの出版業界はどうなる?

望遠鏡で先を覗いている男性

2020年の出版推定金額は0.9%減の1兆2,237億円でした。紙媒体の出版物は20年にわたり右肩下がりを続けており、雑誌の発行部数は5年で3割の減少、ピークだった1996年の半分以下にまで落ち込んでいます。2015年には出版取次4位の栗田出版販売が民事再生法の適用を、2019年には書店大手の文教堂が事業再生ADRを申請しました。

こうした紙媒体の減少は今後も続くと想定されます。

一方で、電子書籍分野は好調な業績を残しています。2020年の電子媒体の販売金額は、前年比27.9%の増加を記録しました。2020年は新型コロナに伴う巣ごもり特需の影響もありましたが、30%近い増収は目を見張るものがあります。

現在の出版業界は、減少傾向にある「紙媒体」と増加傾向にある「電子書籍」が混在しており、トータルの業績は両者の割合(力関係)で決まります。2020年現在では、紙媒体のほうが割合が大きく、全体としては縮小傾向にありますが、今後このバランスが均衡または逆転していくことが想定されます。そのため、このバランスが均衡または逆転した場合には、業界の低迷が底を打ち、業績が上向く可能性があります。

出版業界で今後、伸びそうな分野は?

商品の価値訴求のイメージ

出版業界の今後を考えるうえで重要なポイントは、「紙媒体」の減少をいかに他の領域でカバーするかです。残念ながら、紙媒体の出版物の減少は歯止めがかかりません。紙媒体の減少を食い止めつつ、新たな成長領域を伸ばす戦略が必要です。

ここでは、出版業界において今後、伸びる可能性が高い領域をご紹介します。

2020年の電子書籍の販売金額は前年比27.9%増の3,931億円でした。電子書籍は2016年ごろから増加傾向にあります。ジャンルではコミックの伸びが高く、「電子漫画」の需要が急拡大しています。相次ぐ海賊版サイトの摘発なども功を奏し、収益性の改善も見られます。

2020年に講談社は「デジタル・版権分野」の売上がはじめて、「紙媒体」を上回りました。KADOKAWAは電子書籍の売上が過去最高を記録しています。電子書籍は現在、年2ケタの拡大を見せており、今後も堅調な推移が予想されます。電子書籍は今後の出版業界をけん引してゆく筆頭で、電子書籍の業績いかんで出版業界の未来が左右されると言っても過言ではないでしょう。

ジャンルとして人気が高いのがアニメ、コミックです。近年では電子書籍でのコミックスが伸びており、ライトノベルにも注目が集まっています。KADOKAWAは「ところざわサクラタウン」内にアニメとコラボした「EJアニメホテル」をオープンしました。2次元でのアニメ人気を実際のホテルに取り入れる新しいビジネスモデルを模索しています。日本のアニメは海外での人気も高く、海外展開も大きなチャンスの一つです。

近年、注目をあつめているのが、自治体等による「電子図書館」の運営です。電子図書館とは、利用者がインターネット上で電子書籍を無料で借りることができるサービスです。利用者はスマホやパソコンなどで気軽に本を借りることができ、返却する手間も省けます。

自治体側は物理的なスペースの削減や本を管理をする手間が省け、出版社には「許諾収入」が発生します。米国やシンガポールでは数年前から電子図書館の普及が始まっており、日本でも導入する自治体は200を超えました(2021年現在)。世間的な認知が広がれば、今後はさらに増加する可能性があります。

今後の展望:出版業界に起こりえる3つのシナリオ

複数の業績を見ている人

ここでは、出版業界が今後どのように推移してゆくのか、3つのシナリオから考察してゆきたいと思います。

出版業界の現状から分析しますと、シナリオ②が有力です。「紙媒体」の出版物は、返品率の改善や配本体制の確立、書籍買取制度など多くの取組みが見られますが、いまだ数字の改善は見られません。今後もやはり減少は免れないでしょう。

一方で、「電子書籍」はアニメやコミックを中心に堅調な推移が期待できます。アニメの場合、海外展開も一つの起爆剤になるでしょう。しばらくは減少する「紙媒体」を「電子書籍」が補うという構図が考えられます。

①は「電子書籍」の伸びが鈍化し、減少する「紙媒体」分を補いきれないシナリオです。2020年は巣ごもり消費の影響で全体的に書籍は好調でした。今後も同じような状況が続くとは限りません。③は現在の取り組みが奏功し、「紙媒体」の減少を「電子書籍」の増加が上回るシナリオです。

当面のところ、「電子書籍」の伸びが今後の出版業界の行方を左右します。なかでも特にコミックの売上が大きな影響力を持つでしょう。いかにヒット作を生むかも重要なポイントになります。近年ではKADOKAWAのように、人気のアニメを「コト消費」へと結びつけるモデルも模索されています。当面は厳しい状況にある出版業界ですが、既存ビジネスの改善に加え、従来の枠組みに捕らわれない柔軟な発想が求められています。

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