MEDICINE
目次
グラフは製薬業界の業界規模(対象企業の74計)の推移をグラフで表したものです。
製薬業界の規模の推移を見ることでその市場の大まかな現状や動向を把握することができます。
2020年-2021年の製薬業界の業界規模(主要対象企業74社の売上高の合計)は12兆3,594億円となっています。
製薬業界の過去11年間の業界規模の推移
製薬業界の過去の業界規模の推移をみますと、2010年から2019年は増加傾向にありましたが、2020年はほぼ横ばいで推移しています。
厚生労働省の「薬事工業生産動態統計年報」によると、2020年の医薬品生産金額は前年比1.9%増の9兆3,053億円でした。
医薬品生産金額の推移(出所:厚生労働省、グラフは業界動向サーチが作成)
国内では少子高齢化によって医療費が増加しており、国民医療費は44兆3,895億円(2019年度)、国民医療費に占める薬局調剤医療費は7兆5千億円(2020年度)にも達しています。これにより国は薬価の引き下げを強化し、増加する薬剤費を抑えようと動いています。
国内の製薬業界市場は、薬価改定による価格引き下げで縮小傾向にあります。新薬企業は収益の柱である主力薬の特許が切れ始めたことで利益率が低下、さらに膨大なコストと時間をかけた新薬も薬価低下により収益を上げるのが難しい状況です。後発薬企業も開発コストは低いものの新薬の半分以下の価格になるため、薬価抑制策は企業の利益に大きな影響を与えています。
さらに、製薬メーカー各社は、特許切れの薬剤事業や中核以外の事業売却、早期退職者を募るなど、コスト削減に乗り出しています。特許が切れた益性性の低い生活習慣病分野から希少疾患薬など高収益が見込める薬の開発にシフトしています。
国が後押ししている後発医薬品(ジェネリック医薬品)は、2020年9月時点で使用率が78%までに増加しています。普及拡大で後発薬に参入する企業が増え、後発薬市場でも競争が激しくなっています。ただ、目標の80%を目前に市場の成長率は鈍化傾向にあります。
そして、2020年に入り新型コロナウイルスの感染が世界で拡大しました。海外の大手製薬会社のみならず、武田薬品工業などの国内企業も相次いでワクチンや治療薬の開発に取り組んでいます。新型コロナの製薬業界に与える影響は一時的との見方が大半ですが、毎年行われるようになった薬価改定の影響が響き、各社厳しい状況が続きます。
2021年3月決算の大手製薬5社の売上高は、武田薬品工業は前年比2.8%減の3兆1,978億円、アステラス製薬は同3.9%減の1兆2,495億円、第一三共は2.0%減の9,625億円、大塚HD(医療関連事業)は3.3%増の9,551億円、中外製薬は14.7%増の7,869億円でした。
近年、国内の製薬メーカーは海外企業の買収や業務提携で海外進出を進め、海外売上高の比率を伸ばしています。
新薬開発は年々難易度が高くなるうえに膨大な開発費が必要になるほか、薬価抑制策により国内市場での高収益維持が苦しくなっています。現在、国内をメインとした企業は薬価引き下げの影響を大きく受けていますが、海外展開を積極的に行っている企業の業績は堅調です。
武田薬品工業は2019年1月にアイルランドのシャイアーを6兆円越えで買収し、希少疾患を強化、そして今後2024年までには14の新製品の販売を予定しています。国内2位のアステラス製薬は新薬の開発が強みでがん分野を拡大中、アメリカのファイザーと提携し前立腺がんの治療薬を開発。2019年11月に中国で、12月にはアメリカで認証されました。
第一三共も2019年にイギリスのアストラゼネカと提携し、抗がん剤分野を核とします。エーザイはアメリカのメルクと2018年に抗がん剤分野で提携、さらにアメリカのバイオジェンとは認知症薬の開発を手掛けています。
製薬会社は、新薬の研究・開発など莫大な費用がかかります。こうした点から、資金力が大きな企業ほど開発がしやすく、規模の優位性が働きます。日本の企業が再編を繰り返す背景には、海外のメガファーマの存在も考えられます。
今後、国内では医薬品の拡大が見込める一方で、国民一人当たりの医療費負担は年々増加しています。今後も、「薬価抑制策」が引き続き継続されると想定されており、薬価改定は従来の2年に1度から、毎年行われることとなりました。
国民医療費と一人当たり医療費の推移(出所:厚生労働省より業界動向サーチが作成)
一方で、「薬価の引き下げは企業収益を圧迫し、新薬開発の妨げになる」と製薬企業の業界団体は制度の見直しを訴えています。製薬業界は今後、薬価抑制策や後発薬の普及拡大によって、厳しい状況が予想されます。
そのため、企業の成長には業界規模が大きい海外で、いかにシェアを拡大できるかがポイントとなります。今後は経済成長が著しい新興国でも医薬品市場の需要が見込めるため、いち早く海外需要を取り込むことが重要となります。
日本の製薬メーカーは将来の成長のために、開発費の確保や新薬の特許取得、販路の拡大など、様々な対応が求められ、競争力が低い企業はさらに厳しい状況になるでしょう。 画期的な新薬の開発能力や巨額の開発費が必要になるため、今後、大手・中堅メーカーを中心に資本力のある海外企業との提携が積極的に行われることが予想されます。 また、後発薬企業の間でも激しい競争が繰り広げられており、同じく再編の可能性が見えつつあります。
シャイアーを傘下に収めた武田薬品工業は巨額の買収による財務負担を減らすため、2019年1月に本社ビルを含む21の不動産売却を発表、そのほか非中核事業も売却しています。今後、シャイアーの売上高が加わりますが、財務改善のため収益の確保が課題です。
順位 | 企業名 | 売上高 | シェア | 単位:億円 |
1 | 武田薬品工業 | 31,978 | 25.9 | |
2 | アステラス製薬 | 12,495 | 10.1 | |
3 | 第一三共 | 9,625 | 7.8 | |
4 | 大塚HD ※ | 9,551 | 7.7 | |
5 | 中外製薬 | 7,869 | 6.4 | |
6 | エーザイ | 6,459 | 5.2 | |
7 | 大日本住友製薬 | 5,159 | 4.2 | |
8 | 興和 | 4,116 | 3.3 | |
9 | 協和キリン | 3,183 | 2.6 | |
10 | 小野薬品工業 | 3,092 | 2.5 |