農薬業界の動向と現状、ランキングを分析

畑に農薬を散布している様子

農薬業界の動向、現状、ランキング等を分析しています。データは2021-2022年。過去の農薬業界の市場規模の推移をはじめ、農薬の出荷金額と数量の推移、国内の農業の課題と世界の食糧不足の問題、大型再編の動向などを解説しています。

農薬業界(2021-2022年)

農薬業界の推移と基本情報

業界規模

0.8兆円

成長率

8.8

利益率

8.0

平均年収

722万円

  • 15年
  • 16年
  • 17年
  • 18年
  • 19年
  • 20年
  • 21年

農薬業界の過去の業界規模の推移を見ますと、横ばいで推移していましたが、直近3年間の2021年までは増加傾向にあります。

農薬業界の動向と現状(2021-2022年)

国内市場は横ばい、海外市場は穀物需要の増加で追い風

下のグラフは、国内の主な企業の農薬の出荷金額と数量の推移をあらわしたものです(出農薬工業会より出展)。

農薬の出荷金額と数量の推移

農薬の出荷金額と数量の推移(出展:農薬工業会、グラフは業界動向サーチが作成)

農薬の出荷金額と数量の推移のグラフを見ますと、国内の農薬市場は横ばい傾向にあることが分かります。出荷額については各メーカーが工夫を重ね、単価を上げてきた経緯があります。元来、農薬業界は経済変動の影響が小さく、他の業界に比べ業績が安定しているという特性を持っています。

2021-2022年の農薬業界は、国内の農薬出荷額は横ばいで推移するものの、世界的な穀物需要の増加と円安メリットが追い風となり、業績は好調に推移しています。特に、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な穀物需要のひっ迫は、農薬需要を押し上げる大きな要因となっています。

地域別では、温暖な気候が続いた北米や、大豆やトウモロコシの作付面積の拡大がみられる中南米、天候の回復が見られた東南アジアなどで需要が増加しています。

農薬には「除草剤」、「成長調整剤」、「殺虫剤」、「殺菌剤」などの種類があり、主に雑草の除草や害虫や病気による防除を目的とします。市場では低価格で効果の高い「化学農薬」が使われることが一般的で、卸売りの約4割が農協関係企業となっています。

農薬業界 売上トップ5(2021-2022年)

順位 企業名 売上高(億円)
1 住友化学 4,737
2 クミアイ化学工業 891
3 日本農薬 768
4 日産化学 579
5 日本曹達 505

※は農薬関連の部門売上高。2021-2022年の農薬メーカーの売上高ランキングを見ますと、住友化学の売上高が大きく、クミアイ化学工業、日本農薬と続きます。

首位の住友化学は化学業界2位の総合化学メーカーです。北米や南米を中心に農薬の生産・販売を行います。2位のクミアイ化学工業はJA系列の農薬専業メーカーで、水稲用の除草剤を中心に殺虫・殺菌剤などを手掛けます。海外売上高比率は約55%で、北米やアジア、南米を中心に展開しています。

3位の日本農薬は農薬専業メーカーで、水稲殺虫剤や防除剤、園芸殺虫剤などを手掛けます2020-2021年は世界的な農薬需要の高まりを受け、ランキング上位5社中3社が増収、5社中5社が増益を記録しています。

国内で規制強化の動き「農業競争力強化プログラム」

矢印とお金と農業

農薬は研究開発から販売まで長い期間とコストがかかります。開発から販売までは10年ほどかかるのが通例で、スクリーニングから初期開発、本格開発と多くの工程を必要とします。

2016年11月には政府主導で「農業競争力強化プログラム」が開始されました。このプログラムでは農業生産者の競争力強化を目的とし、農薬価格の引き下げを提言しています。実際に、業界にはジェネリック農薬の開発と利用を促しており、今後の農薬価格の下落が懸念されます。

さらに、2018年には「農薬取締法の一部を改正する法律」が施行され、農薬の安全性についてのさらなる向上が要求されています。こうした「値下げ」や「安全性向上」の圧力は今後も強まる可能性が高く、国内環境はさらに厳しくなることが予想されます。

世界市場は「食糧不足」を背景に拡大へ 再編も活発化

食糧が不足している様子

国内のこうした動向を受け、日本の農薬メーカーは海外市場に成長を見出しています。

一般的に、「農薬」と聞くと国内のイメージがありますが、日本の農薬メーカーはすでに、海外展開を進めています。主に北米やアジア、中南米などに展開しており、主要農薬メーカーの海外売上高比率は50%を超えます。近年では、世界最大市場である「ブラジル」や、人口増加が著しい「インド」に注目が集まっています。

現在、世界的に人口は増加の一途をたどり、2050年には100億人ほどまで増加する見込みです。一方で、農地面積には限りがあり、「食糧不足の問題」が懸念されています。

農作物を害虫や病気から守る農薬は、不足している食糧の生産性を向上させるカギとも言えます。こうした世界的なニーズを背景としていることから、世界の農薬市場は今後、中長期的に拡大していくと予想されます。Agbio Investorによると、今後、2026年の世界の農薬市場は11.5%増(2021年比)の734億ドルになると予想しています。

このような市場拡大の動向を受け、世界では再編が活発化しています。

2017年6月、中国化工集団が業界大手のスイスのシンジェンタを買収しました。これにより、中国化工集団の売上高は3,001億元(約4兆9,000億円)となり、日本の農薬メーカーは売上高で大きな差をつけられました。翌2018年6月には、ドイツのバイエルが米国のモンサントを買収。部門売上高で中国化工集団を抜き、首位に浮上しています。ここ数年で世界的に大型再編が相次いでいます。

農薬業界は製薬業界と似た構造を持っており、「研究開発」と「安全性」に多くの時間とコストがかかります。「時間をお金で買う」という発想は、今後、多くの農薬メーカーで取り入れられることでしょう。世界的に注目されている業界だけに、さらなる再編の動きも予想されます。

農薬業界 ランキング&シェア

農薬業界の売上高ランキング&シェアをはじめ、純利益、利益率、総資産、従業員数、勤続年数、平均年収などをランキング形式でまとめました。各種ランキングを比較することで農薬市場のシェアや現状、動向を知ることができます。

農薬業界 売上高&シェアランキング(2021年-2022年)

順位 企業名 売上高(億円)
1 住友化学 4,737
2 クミアイ化学工業 891
3 日本農薬 768
4 日産化学 579
5 日本曹達 505
6 石原産業 482
7 北興化学工業 241
8 OATアグリオ 226
9 アグロ カネショウ 151

※住友化学は健康・農業関連事業、クミアイ化学工業は農薬及び農業関連事業、日本農薬は農薬事業、日産化学は農業化学品事業、日本曹達は農業化学品事業、石原産業は有機化学事業、北興化学工業は農薬事業の売上高です。シェアとは農薬業界全体に対する各企業の売上高が占める割合です。シェアを比較することで農薬市場における各企業の占有率を知ることができます。矢印は対前年比の増減を表しています。下記のランキングをクリックするとそれぞれ農薬業界の詳細ランキングページにジャンプします。

その他のランキング

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農薬業界 対象企業一覧

住友化学、クミアイ化学工業、日本農薬、日産化学、石原産業、日本曹達、北興化学工業、OATアグリオ、アグロ カネショウの計9社

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